なにわ筋線の朝ラッシュの需要(南海直通)を予想する
2031年開業予定のなにわ筋線では、データイムの1時間の運行形態についてJR直通がはるか2本、くろしお1本、関空快速4本、南海直通がラピート2本、空港急行4本となる計画である(大阪市:なにわ筋線について(平成29年9月19日))。一方、データイム以外の運行形態については言及されていない。そこで、朝ラッシュの南海⇔なにわ筋線の利用者数を予想し、必要な本数を考える。
なにわ筋線を利用する可能性のある人数
南海沿線から大阪都心への主なアクセス手段は以下の通り。
- 難波駅乗り換え
- 新今宮駅乗り換え
- 天下茶屋駅乗り換え
- 三国ヶ丘駅乗り換え
- 中百舌鳥駅乗り換え
ここでは需要の予想しやすい難波駅乗り換え、新今宮駅乗り換えを考える。
難波駅乗り換え
南海難波駅の乗降客数は、2010年度が250,981人、2016年度が252,565人、2024年度が225,409人である。
次に、上述した資料では、南海難波駅と他路線との乗り換え人数(他路線ではなく、他の会社の難波駅の付近への移動も含んでいる可能性があるが、ここでは考慮しない)について、なにわ筋線の開業により以下のように変化すると予測している(単位は千人/日)。なお、この予測には平成22年PT(パーソントリップ?)調査を用いているようであるが、整備前の値について、平成22年度から資料作成時までの乗降客数の変化を反映しているかは不明である。
- 御堂筋線:106→60(-46)
- 千日前線:18→12(-6)
- 四つ橋線:14→6(-8)
- 近鉄難波線・阪神なんば線:22→20(-2)
ただし、これらの変化のすべてが南海からのなにわ筋線直通に反映されるとは限らない。自宅→(南海)→南海難波駅→千日前線・四つ橋線・近鉄・阪神と乗り継いでいた利用者が、関空快速がJR難波駅まで直通となることにより、自宅→(JR阪和線)→JR難波駅→千日前線・四つ橋線・近鉄・阪神と乗り継ぎルートを変える可能性があるためである。最も、JR難波駅は朝晩の発着本数は現在でも多いため、この影響は小さいと考え、千日前線・四つ橋線・近鉄・阪神について減少数の75%がなにわ筋線に移転すると考える。一方、御堂筋線は減少数の100%がなにわ筋線に移転すると考える。このとき、1日のなにわ筋線の利用者数は58,000人となる。
ただしこの値は、南海難波駅の乗降客数の変化を反映していない。2010年度に対する2024年度の乗降客数の割合を掛けると52,090人、2016年度に対する2024年度の乗降客数の割合を掛けると51,764人となる。ここでは、後者の51,764人を採用する。
1日に占める朝ラッシュ時の利用者の割合
混雑率調査を使用(報道発表資料:三大都市圏の平均混雑率が増加<br>~都市鉄道の混雑率調査結果を公表(令和6年度実績)~ – 国土交通省)。南海本線については、粉浜→岸里玉出間の最ラッシュ1時間の輸送人員19,045人をそのまま用いる。一方、高野線については、百舌鳥八幡→三国ヶ丘間の最ラッシュ1時間の輸送人員24,023人を、第12回大都市交通センサス(2015年調査)で公開されている駅間通過人員表の上りの人数で補正し(岸里玉出~天下茶屋は129,550人、百舌鳥八幡~三国ヶ丘は136,537人)、岸里玉出→天下茶屋間を22,794人とする。南海本線と高野線の最ラッシュ1時間の輸送人員の合計が41,839人、2024年度の難波~天下茶屋の乗降客数の合計が396,807人なので、最ラッシュ1時間の輸送人員の割合は10.54%となる。
上述した1日のなにわ筋線の利用者数の予想値と、最ラッシュ1時間の輸送人員の割合を掛けると、5458人となる。
新今宮駅乗り換え
「第13回大都市交通センサス定期券発売実績調査」によると、南海の発売した定期券における、新今宮駅乗り換えの定期券の枚数は以下の通り(難波駅、今宮戎駅発着のものを除く。また、区間開始駅、区間終了駅の合計が10枚未満の駅を発着する定期券はデータに含まれていない)。
- 福島駅:228枚
- 大阪駅:800枚
- 大阪以遠(JR琵琶湖線・京都線・神戸線・湖西線・嵯峨野線・JR宝塚線):560枚
- 京橋乗り継ぎ京阪線連絡:111枚
- 大阪環状線(福島駅除く):4059枚
- JRゆめ咲線:502枚
- JR難波駅:28枚
- その他:1409枚
JRの発売した定期券における、なにわ筋線に関係する駅への定期券の枚数は以下の通り。ただし、JR発売の定期券は経由駅の情報がないため、羽衣・東羽衣乗り継ぎや三国ヶ丘乗り継ぎなども含まれる。
- 福島駅:124枚
- 大阪駅:541枚
- 大阪以遠(JR琵琶湖線・京都線・神戸線・湖西線・嵯峨野線・JR宝塚線):1277枚
ここでは、両者を単純に合算した、福島駅:352枚、大阪駅:1341枚、大阪以遠:1837枚を母数とし、なにわ筋線に転移する人数を考える。
- 福島駅から中之島方面に向かう利用者
- なにわ筋線の中之島駅に多くが転移するとみられるが、絶対数が少ない福島駅利用者のさらに一部にとどまるため、ここでは考慮しない。
- 大阪駅で乗降する利用者
- 御堂筋線経由より運賃が安いためか、一定の利用者がいる。なにわ筋線開通後はなにわ筋線経由が最も運賃が安くなると考えられるため、一定の転移が見込まれる。
一方、新今宮駅乗り換えの場合は大阪駅の南東に到着するが、なにわ筋線経由の場合は大阪駅の北西に到着する。両者の距離は400~500m離れ、人流も多いため、徒歩移動の少ない新今宮駅乗り換えも一定数残るとみられる。そのため、1341枚の半分の670.5枚がなにわ筋線に転移し、さらにその40%の268.2人が最ラッシュ1時間になにわ筋線を利用すると考える。
- 御堂筋線経由より運賃が安いためか、一定の利用者がいる。なにわ筋線開通後はなにわ筋線経由が最も運賃が安くなると考えられるため、一定の転移が見込まれる。
- 大阪駅以遠で乗降する利用者
- 運賃については従来の新今宮駅乗り換えの方が安くなると思われる。一方所要時間については、なにわ筋線経由の場合は19分程度と見込まれる(新今宮駅~大阪駅11分、新難波駅での時間調整2分、うめきた地下口ホーム~西口コンコース4分、西口コンコース~ホーム2分)のに対し、新今宮駅乗り換えでは24分程度と見込まれ(新今宮駅乗り換え3分、新今宮駅~大阪駅18分、大阪駅乗り換え3分)、所要時間の面では6分程度速くなるとみられるほか、人流が比較的少なく人混みを避けられる。そのため、1837枚の40%の734.8枚がなにわ筋線に転移し、さらにその半分の293.92人が最ラッシュ1時間になにわ筋線を利用すると考える。
通勤型車両1両あたりの輸送力
混雑率調査を使用する。ただし、南海本線はサザン2本とラピート2本、高野線はりんかん1本と泉北ライナー1本が含まれているため、これらの両数と座席定員を除き計算する。すると、南海本線は1両あたり134.47人、高野線は1両あたり134.34人となる。そのため、これを均して134.4人として今後の計算に用いる。
混雑率の計算
先述した通り、難波駅乗り換えからの転移を5458人、新今宮駅乗り換えからの転移を562人とする。
朝ラッシュの上りに関して、ラピートを毎時2本走らせると仮定する。このとき、このラピートは新型車両で、4両編成を2本繋げて8両で運行しているものとし、1編成の定員はサザンプレミアムの242人から荷物スペースとして仮定した24人を引いた218人であると仮定する。このラピートの乗車率が100%であるとすると、ラピートの乗車人数は872人であり、通勤型車両で輸送しなければならない人数は、5148人となる。
この人数を混雑率100%で輸送する場合に必要な両数は38.3両となる。また、8両編成4本の32両を1時間で走らせた場合、混雑率は119.7%となる。これは、2024年度の南海本線の最ラッシュ1時間の混雑率114%、高野線の106%より高い。
その他の要因
上記の値は、2024年の状況で、南海難波駅、新今宮駅での乗り換えのみを考慮したものである。以下のような要因も実際には影響する。
2024年から2031年の間の利用者数の変化
なにわ筋線開業までの間、および開業後に利用者が増減する可能性がある。朝ラッシュ時の場合、関空などを利用する観光客よりは沿線住民の方が多いと考えられるため、沿線の人口減少の影響を強く受けると考えられる。一方、うめきた2期や中之島五丁目の再開発の進展もあり、利用者を増加させる要素もある。
定期旅客運賃改定の影響
2023年10月1日に南海、泉北の定期旅客運賃がそれぞれ値上げされた。一方、2025年4月1日の泉北合併と同時に行われた運賃改定で、中百舌鳥駅を跨ぐ定期券の運賃が大幅に値下げされた。これにより、中百舌鳥駅で地下鉄に乗り換えず、南海で大阪市内に向かう利用者が増加していると、南海の2025年度第2四半期決算説明会資料で示されている。
なにわ筋線内の駅への運賃についても、運賃改定が行われなかった場合は「泉北+南海(高野線、なにわ筋線)」と「泉北+Osaka Metro」を比較することとなっていたが、運賃改定により「南海(泉北線、高野線、なにわ筋線)」と「南海(泉北線)+Osaka Metro」を比較することとなり、なにわ筋線を利用する場合の価格競争力が増しているため、利用者を増加させる影響があると考えられる。
なお、なにわ筋線の運賃については、南海独自の新設線の新難波~西本町間で加算運賃が設定される可能性が高い。もっとも、他社線に乗り換えた場合に発生する初乗り運賃よりは安いのではないかと見ているが……。
最後に
以上の通り、なにわ筋線の朝ラッシュの利用者数を予想した。実際は、需要予測の上振れに対する余裕を持たせると考えると、JRの朝ラッシュのパターンに合わせ、約12分間隔で急行または空港急行を走らせるのが妥当と思われる(開業までにJRの12分パターンが変わらなければ、の話であるが)。
