大手私鉄はどのようにターミナル駅の発着本数を分散しているのか
Xで以下の投稿があった。
このうち、都心付近での路線の分岐と、地下鉄直通はいずれも1つの駅に到着する本数を減らすための工夫である。行き止まりの駅では駅に入る列車と駅から出る列車の経路が交差してしまうので、駅に到着する本数をあまり増やせないのである。また、都心部に駅があるので、ホームや線路の数を増やすこと自体も簡単ではない。
そこで、今回は大手私鉄の都心付近で、1つの駅に到着する本数を減らすための工夫がどのように行われているかをみる。
※都心同士を結んでいる場合、より大きい都市の側のみを取り上げる。このため相鉄・東急直通線は東急側からは取り上げない。
※行先について、平日朝ラッシュの都心方面を記載する。朝ラッシュ以外のみの行先や、都心から遠く離れた駅(南海泉北線中百舌鳥駅など)は考慮していない。「すべての列車が○○駅を終点とする」と書いている場合も同様である。
※一部はWikipedia情報なので、特に関東方面の信頼度は低めです。
東武伊勢崎線
構造:途中駅からの地下鉄直通・途中駅から自社線を経ての地下鉄直通
行先:浅草(頭端式4線)、東京メトロ日比谷線直通(1962年)、メトロ半蔵門線に直通(2003年)
重複:とうきょうスカイツリー駅(浅草方面)と押上駅(半蔵門線方面)のみ
北千住以北から来る列車のうち、特急・区間急行・区間準急は浅草行き、THライナー・普通は北千住から日比谷線に直通、それ以外の種別は曳舟から自社線を経て半蔵門線に直通する。
2003年までは、業平橋駅(現・とうきょうスカイツリー駅)での折り返しが可能だった。
東武東上本線
構造:途中駅からの地下鉄直通
行先:池袋(頭端式3線)、東京メトロ有楽町線直通(1987年)、東京メトロ副都心線直通(2008年)
ターミナル方面の路線と分岐線の重複:有楽町線、副都心線とも、成増、下赤塚、池袋が重複
和光市から東京メトロ有楽町線、副都心線に直通している。
西武池袋線
構造:途中駅から自社線を経ての地下鉄直通
行先:池袋(頭端式4線、うち1線は2編成停車可)、東京メトロ有楽町線直通(1998年)、東京メトロ副都心線直通(2008年)
ターミナル方面の路線と分岐線の重複:どちらも池袋が重複
練馬から西武有楽町線(練馬〜小竹向原)を経て東京メトロ有楽町線、副都心線に直通している。
西武新宿線
すべての列車がターミナルである西武新宿駅(南海、単式・島式3線)を終点とする。
京成本線
構造:途中駅から自社線を経ての地下鉄直通
京成上野:島式2面4線
押上線:1912年開業、都営浅草線に直通(1960年)
京王線
構造:途中駅から自社線を経ての地下鉄直通
新宿(旧線):頭端式3面3線
笹塚〜新宿(新線):都営新宿線に直通(1980年、京王新線区間は1978年)
小田急小田原線
構造:途中駅からの地下鉄直通
新宿:地上頭端式4面3線+地下頭端式3面2線
代々木上原:メトロ千代田線に直通(1978年)
東急田園都市線
構造:終点での地下鉄直通
渋谷:メトロ半蔵門線に直通(1978年)
なお渋谷〜二子玉川間は1969年廃止の路面電車を継承し、1977年開業
東急東横線
構造:終点での地下鉄直通
渋谷:メトロ副都心線に直通(2013年)、島式2面4線
中目黒:メトロ日比谷線に直通(1964年)、2013年終了
東急目黒線
構造:終点での地下鉄直通
目黒:メトロ南北線、都営三田線に直通(2000年)、1997年の地下化前は頭端式
京急本線
構造:終点から自社線を経ての地下鉄直通
泉岳寺〜品川:都営浅草線に直通(1968年)
相鉄本線
構造:途中駅から自社線を経ての他社線直通
横浜:頭端式4面3線
西谷:JR東海道貨物線(2019年)、東急新横浜線(2023年)に直通
名古屋鉄道
構造:都心の両側を直通、途中駅からの地下鉄直通、途中駅(金山、須ケ口)止めの設定
名鉄名古屋:スルー式
上小田井:鶴舞線に直通(1993年)
近鉄名古屋線
すべての列車がターミナルである近鉄名古屋駅(頭端式4面5線)を終点とする。
近鉄南大阪線
すべての列車がターミナルである大阪阿部野橋駅(頭端式6面5線)を終点とする。
近鉄京都線
構造:途中駅からの地下鉄直通
行先:京都駅(近鉄、頭端式4面4線)、烏丸線(1988年直通開始)
2012年までは京都駅は3線であった。
近鉄奈良線
構造:終点での他社線直通
行先:大阪難波駅、阪神なんば線直通(2009年直通開始)
2009年までは、大阪難波駅の西に引き上げ線が3本あった。
近鉄大阪線
一部の特急を除き、すべての列車がターミナルである大阪上本町駅(頭端式6面5線)を終点とする。2024年までは7面6線であった。
南海本線・南海高野線
すべての列車がターミナルである難波駅(南海、頭端式9面8線)を終点とする。
京阪本線
構造:途中駅からの自社線分岐
行先:淀屋橋(島式1面4線)、中之島(島式1面3線)
2008年の中之島線開業までは天満橋行きの列車があった。
阪急神戸本線、宝塚本線
すべての列車がターミナルである大阪梅田駅(阪急、頭端式10面9線、各本線が3線ずつ使用)を終点とする。
阪急京都本線
構造:途中駅から自社線を経ての地下鉄直通
行先:大阪梅田(京都本線使用分は3線)、大阪メトロ堺筋線(1969年直通開始)
分岐駅の淡路駅には阪急千里線も合流しており、千里線からの大阪梅田行きも存在するが、それよりも京都本線茨木市方面からの堺筋線直通の方が本数が多い。
阪神本線
構造:途中駅から自社線を経ての他社線直通
行先:大阪梅田(頭端式3面4線)、阪神なんば線経由近鉄線直通(2009年直通開始)
2020年代の大阪梅田駅改修前もホームや線路の配置は異なるが4線である。阪神なんば線開業前の阪神西大阪線(尼崎〜西九条)への乗り入れは開業直後を除いてなかった。
西鉄天神大牟田線
すべての列車がターミナルである西鉄福岡(天神)駅(阪急、頭端式4面3線)を終点とする。
まとめ
各社を振り返ると、都心付近での路線の分岐および他社線直通をどちらも行っていない路線は、関東では西武新宿線のみであったのに対し、関西・九州では多く、両地域の私鉄の傾向には違いがあるといえる。
また列車の行先を分散する方法としては、以下の方法があった。
- 他路線への直通
- 途中駅からの地下鉄直通(多数)
- 途中駅から自社線を経ての地下鉄直通(東武伊勢崎線・西武池袋線・京成・京王・阪急京都線)
- 途中駅から自社線を経ての他社線直通(相鉄・阪神)
- 終点での地下鉄直通(東急東横線・田園都市線・目黒線)
- 終点から自社線を経ての地下鉄直通(京急)
- 終点での他社線直通(近鉄奈良線)
- その他
- 途中駅からの自社線分岐(京阪)
- 途中駅止めの設定(名鉄)
これらの類型が生じた理由として以下が考えられる。
- 自社線を挟む理由
- 京成・阪急京都線・阪神については、以前からある線路を活用したものである。
- 東武伊勢崎線・京王については、ターミナル方面の路線と主要駅を共有する経路であり、地下鉄を挟むことによるターミナル駅への利便性(運賃・定期券など)の悪化を避けたかったのではないかと推測できる。ただし同様の経路でも自社線を挟んでいない例も多く、各社の判断によるものと考えられる。
- 相鉄については、新横浜駅を境に東急も新しく自社線を運行しており、新横浜駅への両社利用者の利便性を考慮したものとみられる。
- 西武池袋線・京急については不明。
- 地下鉄ではなく他社線に直通する理由
- 相鉄については、直通による目的地を東京としており、距離が長く、地下鉄の担当する範囲から外れるため。
- 阪神・近鉄については、すでに大阪市営地下鉄千日前線を開業させており、大阪市交通局にとって同区間を新たに開業させる意味が薄かったためと考えられる。