京都の観光がなぜ市バス頼りになるのか、観光地の場所から考える
「京都の観光地は駅から遠い」ということを書くためだけに5000文字を費やす記事、はじまりはじまり。
はじめに
都市における鉄道とバスの特徴を比較すると以下のようになる。
鉄道
- 速度が速い(御堂筋線梅田〜なんばの場合、4.1kmを日中9分で走るので時速27km)
- 駅が少ないため、駅と出発地・目的地の間の移動に時間がかかることが多い
路線バス
- 速度が遅い(大阪シティバス8号系統なんば〜大阪駅前の場合、日中で20〜27分)
- バス停が多いため、バス停と出発地・目的地の間の移動に時間がかかることが少ない
このため、基本的に長距離の移動を行う場合は多少駅が遠くても鉄道が使われる一方、短距離の移動では駅までの移動や乗り換えを嫌い路線バスが使われることが比較的多い。
そこで、大阪市付近と京都市付近において、中心駅から約10km以下の観光地で、鉄道の使い勝手がどのようになっているかを調査する。
大阪の場合
大阪の観光地として、「2023年度10月版 訪日外国人旅行者の動向把握にむけた関西空港出口調査」の24ページをみる。
https://octb.osaka-info.jp/business/b27.html
大阪府域の訪問施設として、大阪滞在者のうち1789人に、実際に訪れた場所を質問したデータが掲載されている。これに対する回答として掲載されている18箇所について、関西国際空港からアクセスする際の乗り換え回数と最寄り駅からの距離を記載すると以下の通りとなる。なお、地域名で回答されている場合は、代表地点またはその地域への入口へのアクセスを記載する。
観光地の立地の由来が、江戸時代以前に遡る場合は施設名の前に☆を、明治時代以降の場合は★を付している。判定ができない、または難しいものにはどちらも付していない。
例:戎橋は江戸時代より存在するが、繫華街として現在まで存続しているのは明治時代以降の都市計画や鉄道の影響が大きいという点、戎橋からの景観として有名なグリコサインの起源は1935年であるなど、段階的に観光地としての魅力ある施設(と現在みなされているもの)が整備されている点を考慮し、星を付していない。
10%以上の人が回答した場所
- 戎橋<原文:道頓堀(心斎橋・難波・アメリカ村)>:乗り換え0回、徒歩700m(南海難波駅)
- ☆大阪城:乗り換え0回、徒歩すぐ(JR大阪城公園駅)
- ★ユニバーサルスタジオ:乗り換え1回、徒歩すぐ(JR西九条駅→ユニバーサルシティ駅)
- 日本橋入口:乗り換え0回、徒歩すぐ(南海難波駅)
- 黒門市場入口:乗り換え0回、徒歩400m(南海難波駅)
- ★梅田スカイビル空中展望台:乗り換え0回、徒歩700m(JR大阪駅)
- ★通天閣(新世界) :乗り換え0回、徒歩500m(JR新今宮駅)または800m(南海新今宮駅)
- ★海遊館:乗り換え1回、徒歩700m(JR弁天町駅→中央線 大阪港駅)
- ★あべのハルカス:乗り換え0回、徒歩すぐ(JR天王寺駅)
10%未満の人が回答した場所
- ★天王寺動物園:乗り換え0回、徒歩500m(JR天王寺駅)
- ★グランフロント大阪:乗り換え0回、徒歩すぐ(JR大阪駅)
- とんぼりリバークルーズ<原文:リバー・ベイクルージング(とんぼりクルーズ等)>:乗り換え0回、徒歩800m(南海難波駅)
- ★大阪市中央公会堂(中之島) :乗り換え1回、徒歩400m(南海難波駅→御堂筋線 淀屋橋駅)
- ★大阪くらしの今昔館:乗り換え0回、徒歩650m(JR天満駅)
- ★京セラドーム:乗り換え0回、徒歩600m(JR大正駅)
- ★アサヒビール工場見学:乗り換え1回、徒歩400m(JR大阪駅→JR京都線 吹田駅)
- ★服部緑地<原文:服部鶴見緑地>:乗り換え1回、徒歩400m(南海難波駅→北急 緑地公園駅)
- ★鶴見緑地<原文:服部鶴見緑地>:乗り換え1回、徒歩すぐ(JR大正駅→長堀鶴見緑地線 鶴見緑地駅)
大阪市付近の結果
最寄り駅からの移動距離について、500m未満は10箇所、500m以上1000m未満は8箇所、1000m以上はなしと、おおむね駅からの距離が短い。また、乗り換え回数についても、0回は12箇所、1回は6箇所であり、比較的少ない。なお国内旅行やゴールデンルートでの移動に使われる新大阪駅を基準とした場合、大阪城、大阪くらしの今昔館、京セラドームが0回から1回に増え、大阪市中央公会堂(中之島)、アサヒビール工場、服部緑地が1回から0回に減る。また、ほとんどの観光地は明治時代以降に由来している。
京都の観光地
行政機関の調査では、「京都市観光協会データ月報」や「京都観光総合調査」などで、岩倉、山科、哲学の道など、39地点に分けたデータはあるものの、具体的な観光地の情報は少ない。
https://www.kyokanko.or.jp/survey_list
https://www.kyokanko.or.jp/wp/wp-content/uploads/KTA_monthly_report_202401-1.pdf
そのため、以下のサイトで紹介された場所を取り上げる(京都市から離れた天橋立、伊根と、山間部の貴船神社、瑠璃光院、大原を除く)。まあ天下のJR東海だし。
https://travel.jr-central.co.jp/plan/area/kyoto/kankospot
基本的に新幹線の通る京都駅からの乗り換え回数と最寄り駅からの距離を記載する。なお、地域名で回答されている場合は、代表地点またはその地域への入口へのアクセスを記載する。また、寺社の敷地内は基本的に距離に含めない。
なお、京都市観光協会の運営するウェブサイト「京都観光Navi」を一部参考にしている。
https://ja.kyoto.travel/feature/traffic/access.php?id=12
京阪沿線・東西線蹴上駅付近
- 1.☆清水寺仁王門<原文:清水寺>:乗り換え1回、徒歩1.4km(JR奈良線 東福寺駅→京阪 清水五条駅)
- 2.☆建仁寺北門<原文:建仁寺>:乗り換え1回、徒歩600m(JR奈良線 東福寺駅→京阪 祇園四条駅)
- 3.★祇園 花街芸術資料館:乗り換え1回、徒歩600m(JR奈良線 東福寺駅→京阪 祇園四条駅)
- 4.花見小路入口<原文:祇園>:乗り換え1回、徒歩250m(JR奈良線 東福寺駅→京阪 祇園四条駅)
- 5.☆銀閣寺:乗り換え1回、徒歩2.3km(JR奈良線 東福寺駅→京阪 出町柳駅)、または乗り換え1回、徒歩2.6km(烏丸線 烏丸御池駅→東西線 蹴上駅)。哲学の道を経由することから、京都観光Naviでは後者が案内されている。
- 6.★哲学の道南端<熊野若王子神社前、原文:哲学の道>:乗り換え1回、徒歩1.2km(烏丸線 烏丸御池駅→東西線 蹴上駅)
- 7.☆南禅寺:乗り換え1回、徒歩700m(烏丸線 烏丸御池駅→東西線 蹴上駅)
- 8.☆永観堂:乗り換え1回、徒歩1km(烏丸線 烏丸御池駅→東西線 蹴上駅)
- 9.★蹴上インクライン:乗り換え1回、徒歩すぐ(烏丸線 烏丸御池駅→東西線 蹴上駅)
- 11.★京都市動物園:乗り換え1回、徒歩550m(烏丸線 烏丸御池駅→東西線 蹴上駅)
- 21.☆詩仙堂:乗り換え2回、徒歩850m(JR奈良線 東福寺駅→京阪 出町柳駅→叡山 一乗寺駅)
- 22.☆賀茂御祖神社:乗り換え1回、徒歩500m(JR奈良線 東福寺駅→京阪 出町柳駅)
烏丸線・京都駅付近
- 10.錦市場:乗り換え0回、徒歩550m(烏丸線 四条駅)
- 12.☆東寺:乗り換え0回、徒歩500m(近鉄 東寺駅)、または京都駅から1.1km
- 13.☆東福寺:乗り換え0回、徒歩700m(JR奈良線 東福寺駅)
- 14.☆三十三間堂:京都駅から1.3km(東福寺駅・七条駅経由も可能)
- 15.★京都タワー:京都駅から徒歩すぐ
嵯峨野線沿線
- 16.★京都鉄道博物館:乗り換え0回、徒歩すぐ(嵯峨野線 梅小路京都西)
- 17.☆金閣寺:乗り換え1回、徒歩1.5km(嵯峨野線 太秦駅/嵐電 撮影所前駅→嵐電 北野白梅町駅)、または乗り換え0回、徒歩2.6km(円町駅)
- 18.☆渡月橋:乗り換え0回、徒歩850m(嵯峨野線 嵯峨嵐山駅)
- 19.★嵯峨野トロッコ列車:乗り換え0回、徒歩すぐ(嵯峨野線 嵯峨嵐山駅)
- 20.★東映太秦映画村:乗り換え0回、徒歩600m(嵯峨野線 太秦駅、撮影所横の通路含む)
その他
- 26.☆伏見稲荷大社:乗り換え0回、徒歩すぐ(JR奈良線 稲荷駅)
- 27.☆平等院鳳凰堂:乗り換え0回、徒歩700m(JR奈良線 宇治駅)
- 28.☆醍醐寺:乗り換え1回、徒歩800m(琵琶湖線 山科駅→東西線 醍醐駅)
京都市付近の結果
まず、乗り換え回数について、0回は11箇所、1回は13箇所、2回は1箇所であり、大阪に比べて比較的多い(金閣寺は嵐電ルートを利用)。主な原因として、京都駅から京阪沿線へのアクセスに乗り換えが必要である点が挙げられる。
最寄り駅からの移動距離について、500m未満は6箇所、500m以上1000m未満は13箇所、1000m以上は6箇所と、駅からの距離が長い施設が多い。特に江戸時代以前に由来する観光地15箇所では、駅からの距離が500m未満は1箇所、500m以上1000m未満は9箇所、1000m以上は5箇所であり、さらに清水寺、金閣寺、銀閣寺といった有名な観光地が軒並み駅から1km以上離れた場所にある。一方、明治時代以降に由来する観光地は、哲学の道を除き駅から600m以内に位置している。
全体の結果
大阪市付近と京都市付近の観光地の鉄道アクセスを比較した結果、京都市付近の方が中心駅からの乗り換え回数が多く、最寄り駅からの距離も大きい傾向にある。そのため観光における鉄道の使い勝手が悪くなっていると考えられる。またその理由として、大阪市付近が明治時代以降に由来する観光地が多いのに対し、京都市付近は江戸時代以前の寺社が主な観光地の一つとなっているためと考えられる。
考察
京都市付近、特に東山エリアでは駅から離れた観光地が多いものの、それがすぐさま鉄道の不便さに繋がるとはいえないという見方もできる。特に五条坂バス停・清水通バス停~清水寺~東西線東山駅、東西線蹴上駅~哲学の道~銀閣寺~銀閣寺通バス停には多数の寺社や観光地化された参道があり、これらのルートを歩くこと自体が観光の目的になりうる。そのように考えると、五条坂バス停、清水通バス停、銀閣寺通バス停から京都駅または京都駅から出ている各線の鉄道駅へのアクセスを便利にするだけでも大きく公共交通による観光は便利になると考えられる。
先述の「京都観光Navi」では、京都駅・四条河原町駅から主要観光地へのアクセス手段や混雑状況の提供を行っている。例えば「東山(清水寺)」へのアクセスとして、清水五条駅、東山駅からの徒歩のほか、京都駅からの観光特急バス、烏丸線九条駅からのバスを案内している。
https://ja.kyoto.travel/feature/traffic/access.php?id=1
※リンク先には「九条駅からバス停まで徒歩約8分」とあるが、「京都駅からバス停まで徒歩約8分」の誤りのようにも思える。
また、「銀閣寺・哲学の道」へのアクセスとして、蹴上駅からの徒歩のほか、京都駅からの観光特急バス、烏丸線今出川駅からのバスを案内している。
https://ja.kyoto.travel/feature/traffic/access.php?id=12
このように、京都市が当記事で述べたような事情を考慮して、バスの設定や案内を行っていることが読み取れる。
おわりに
手癖で書いたんですが、なんでこんなに学生のレポートっぽい文章になるんでしょうね。